(2020/12/11 執筆・文責:福夕郎)
※ 本記事は 「Board Game Design Advent Calendar 2020」 11日目の記事です。
記事は3部構成になっています ⇒ Vol.1(2018年の記事) ・ Vol.2 ・ Vol.3(本記事)
◆感情への寄与:舞台装置としてのランダマイザ
前の記事 では適切なランダマイザの使いどころ、順序について論じました。
本稿はこれまでとは少し方向性が違い、
ゲームシステム的なお話ではなくプレイヤー感情に及ぼす影響に着目します。
ゲームをデザインする際、ゲーム中に起こしたい感情起伏に適したランダマイザを
選択するための参考にしてもらうというのが本稿の狙いです。
◆同じ機能でもプレイヤーの感じ方が違うってどういうこと?
色々と説明するより例を挙げたほうがてっとり早いのでまたまた例示からのスタートです
方法①:6面体サイコロ
方法②:数字1~6が書いてあるウラ向きのカードを1枚オモテにする
方法③:数字1~6が書いてあるウラ向きの山札の一番上を1枚オモテにする
これらのランダマイザはすべて「1~6の数字を1/6の確率で抽出する」
という機能を持っています。しかし、いざ自分がプレイヤーになると
試行における感じ方がだいぶ異なることが分かります。
私はこれらを大枠では3つの軸で捉えています。(※1)
軸 ①:見え方、可視化の度合い
軸 ②:能動的 or 受動的
軸 ③:アクション性が高い or 低い
※1 今回考察するのが ”3つ” なだけで、本当は他にもいろいろな要素があると思います。
忘れてはいけないのは「ロールプレイ、ごっこ遊び的な楽しさ」
(「ごっこ」という言い方は馬鹿にしてるわけじゃないのであしからず)
ゲームにおいてごっこ遊びは非常に重要な要素 です。
今回の記事においては関連性が薄いと判断したので割愛しています。
◆軸①:見え方、可視化の度合い
ランダマイザ部分がどれぐらい見えているか。
ここで言っている「見えているか」というのは
きちんと考えた上で分かるような「見えているか」ではなくて
ぱっと見たときの見え方のことを指します。
上で示した例を考えると以下のように区分されます。
それぞれの機能について以下に示します。
あくまで一般的な私個人の認識であり、
フレーバーやプレイヤーの個性などの外部パラメタによって
それぞれの機能が変化することに注意してください。
プラス面のみ記載します。
言い換えると、可視化されていることの良い面は、
可視化されていないことの悪い面ともなりうることに留意下さい。
+ 可視化されていることの効果 (Visible)
- 公平性
- 期待値を誤魔化せない
- 一部を強調可能(サイコロで1の目を赤くするなど)
- ランダム性の担保(カードを目の前でシャッフルする、など)
+ 可視化されていないことの効果 (IN-visible)
- 見えていないことのワクワク感
- 期待値を誤魔化せる
上記のほかにも効果があると思うので
思いついたら順次追加していきます。
その他の例もいくつか示します。
どちらかにかっちり分けられるものばかりではないことにも気を付けて下さい。
- 中身が見えない袋から引く ⇒ 可視化されていない(おみくじもコレですね)
- ひもくじ(縁日にあるやつ) ⇒ 部分的な可視化
- (順次追記)
ちょっと話がそれますが、ランダマイザ自体を複雑化することで
単純な感情の起伏から遠ざけるという手法も見受けられます。
ランダマイザの種類や試行回数を増やすと、
良い結果が得られたのか悪い結果だったのか、
よく分からなくなるプレイヤーの割合が増えていきます
(単にゲームへの習熟度の違いでしかないです)
個人的にはこの手法がとても嫌いです。
何故ならば感情の起伏の鈍化はゲームの楽しさを棄損すると考えるためです。
ゲームっぽさを簡単に出す手法としてよく見受けられるのですが
デザイナーの誤魔化し、甘えだと思っています。
(自分も絶対やらないと断言は出来ないんですが…苦笑)
シンプルで面白いゲームってまさにこういうことだと思うんですよね
それが一番難しいんだけどね!
◆軸②:能動的 or 受動的
プレイヤーの行動が受動的か能動的かによって
感情への寄与が大きく異なります。
以下に分類例を示します。
この軸も能動的か受動的かはグラデーションになっており、
かつ人によって感じ方がかなり異なるところなので
自分をロールモデルとした思い込みは禁物です。
+ 能動的であることの効果 (Active)
主体性と結果への納得感が増します。
つまり 感情の起伏を起こしやすい ランダマイザと言えます。
注意点:正負両方の感情とも増幅される
良い結果が出たときには、自分がしたことで良い結果が得られた!と
なりますが、悪い結果が出たときの気持ちの沈み方も激しくなります。
また、結果の妥当性によってはクソ〇ゲーと断じられてしまうこともあるので
使用する際はより注意深く使うようにしましょう。
+ 受動動的であることの効果 (Passive)
結果への諦め、運ゲーに対する許容値が増します。
良い目が出ればラッキー、悪い目が出ても仕方がない
という風に諦めをつけて次のフローに進んでもらいやすいです。
ゲーム中に 言い訳の余地がある ということはプレイヤー感情/体験において
非常に重要な要素なので、うまく使っていきましょう。
注意点:プレイヤーが退屈になる
ゲーム中にプレイヤーの気持ちが動かない時間が増えるため
別の部分でゲームの楽しさを担保する必要があります。
これには例外もあり、ルーレットのようなゲームであれば
受動的であるが故に祈るしかなく、気持ちが昂るという例もあります。
正確には、後述のアクション性(ボールが回っている間に何もできないこと)と
組み合わさって生まれた効果なので、ここで語るのは少し違うかもしれません
◆軸③:アクション性
能動/受動と少し似ているように感じるかもしれませんが、
ここでいうアクション性とは、プレイヤーがプロセス上で体を動かすかどうか を指しています。
能動/受動の部分で語っているのは、プレイヤー側が何らかの行動を起こすのか
他の要素(他プレイヤー、ディーラー、道具などなど)から起こされるのか、という部分です。
+ アクション性が高いことによる効果
・アクション=楽しい! これ最強!!
・プレイヤーが感じるゲーム中のダウンタイム減少
⇒ パーティーゲームとの相性が良い
・アクションによるフローの区切り、仕切り直しポイントの発生
⇒ これによりゲームに緩急が発生する
+ アクション性が低いことによる効果
・じっくり考えてプレイしている感
⇒ 意思決定が重いゲームと相性が良い
・色んな人がプレイしやすい。身体能力や年齢などに左右されづらい
(脳の思考能力も身体能力の一つではあるが…最近記憶力が衰えて辛い…)
◆各方法の感じ方例
① サイコロ ⇒ 能動的 + アクション要素強め
サイコロを振るというプレイヤーが動かす行為が介在するため、
サイコロが転がっている間の緊張感と良い目が出たときの嬉しさ、
達成感の緩急があることなどが特徴。
また、多少確率が低くてもなんとかなりそうな気がして挑戦する方向に感情が動きやすい。
これは運のせいに出来るという感情が裏で動いていることにも起因すると考えられる。
② 6枚のカードから選ぶ ⇒ 能動的 + アクション要素弱め
カードを選ぶという能動的行為ではあるが、静的な行動なため感情の起伏は薄め。
狙った数値を出すためには、サイコロも1/6、カードも1/6であるため本来は同様に確からしいはず
なのだが、こちらはカードを選択しているので、当たったときに自分が選択したという達成感が得られる。
③ 山札の一番上のカードを引く ⇒ 受動的 + アクション要素弱め
①②と比較して確率は同じ1/6だが、プレイヤーの選択肢が少ないように感じる。
そのため良い数字が出ても達成感は低いし、悪い数字が出ても仕方がないとあきらめがつく。
より博打的なゲームに向いている。
逆に言うと、運否天賦の話なので悪い目が出ても「ただ単に運が悪かった!」というように
言い訳の余地があることはある種のゲームで使いやすいこともある。
◆補足情報:説明の仕方、表現方法
~ 正の感情と負の感情:ユーザーエクスペリエンスの設計 ~
ゲームに限ったことではないのですが、言い方ひとつで感じ方って変わるから
ゲーム内の表現でも注意しましょうねってお話です。
無駄に負の感情を想起させないようにする、というのが基本ですが
正の感情へ誘導することもやり方次第では可能だと考えています。
誤解を恐れずに言うと「ポジティブな表現か?ネガティブな表現か?」
とも言えます。(これは正確な表現ではないのですが、分かりやすさ重視で敢えていいます)
あんまり良い例が出てこなかったので、後程追記します
例:サイコロを振って偶数を出せばゲームクリア
・肯定的な説明
君の一投にかかっている!
・否定的な説明
自戒も含めて気を付けておきたいのは
これらはあくまでテクニックであり、お化粧、添え物なので
根本的なゲーム自体を磨くことをおろそかにしないようにしたいです。
◆ Vol.3 についてのまとめ
入力とその結果の確率分布以外にも以下のような要素によって
ランダマイザがプレイヤー感情に与える影響は異なる
-
装置の見え方
-
プレイヤーの行動が受動的か能動的か
-
アクション性の有無
-
装置の説明、表現方法
◆ 全体のまとめ
Vol.1 ~ Vol.3 でランダマイザについて様々な角度から分析、評価を行いました。
ゲームを制作される際、どういうメカニクスを採用するか迷われている際に
少しでも参考になれば幸いです。
~ 終わりに ~
アドベントカレンダーを執筆しはじめて遂に5年目になりました。
こちらの記事が面白かったのであれば、これまでの記事 も是非ご覧ください。